「待機児童ゼロ作戦」について

「待機児童ゼロ作戦」の現況
国の方針
全国でおよそ30,000人以上はいるといわれている待機児童ですが、小泉首相が掲げる「待機児童ゼロ作戦」を実行すべく、政府は今後3年間で15万人の受け入れ体制を整備しようとしています。この数字は、内閣府の男女共同参画会議に設置した「仕事と子育ての両立支援策に関する専門調査会」から提言されたものです。 この調査会がまとめた報告書によると、具体的目標・施策として「待機児童ゼロ作戦:保育所、保育ママ、自治体におけるさまざまな単独施策、幼稚園における預かり保育等を活用し、潜在を含めた待機児童を解消するため、待機児童の多い地域を中心に、平成14年度中に5万人、さらに、16年度までに10万人、計15万人の受け入れ児童数の増大を図る。施設の運営は民間を極力活用し、最小コストで最大の受け入れの実現を図る。」としています。
 つまりは「待機児童ゼロ」を実現化させるためには、民間企業の参入を前提としなければならず、既存の設立主体である地方自治体・社会福祉法人のみの拡充では、最小コストでの15万人分の受け入れ体制の具現化は難しいということです。

自治体の対応
こうした中央の方針に対し、各自治体の対応はさまざまです。まずは、企業の活力を積極的に取り込もうとしている自治体として、横浜市・東京都・埼玉県などが挙げられます。
 横浜市では、平成9年7月に「横浜保育室事業」を創設し、現在は113園が「横浜保育室」として「認定」を受け、内32園が企業運営で活動しています。この「横浜保育室」制度とは、最も需要のある3歳未満児の保育サービスに特化した制度で、認可外保育施設ですが、市民が安心して預けられることと、利用しやすい施設であることを目指し、横浜市が独自に保育料・保育環境・保育時間等に一定の基準を設け、それらの基準を満たす施設を「横浜保育室」と認定して横浜市が助成する施設のことです。 

東京都でも、独自基準による「認証保育所」をスタートさせ、既に今月1日から3ヵ所で開業し、民間企業の参入を促進しています。
 また埼玉県では、上尾市で株式会社が経営する認可保育所が9月にオープンします。株式会社の認可保育所は、昨年3月30日に経営主体の制限が撤廃されて以来県下ではじめてのことで、零歳児保育や午後8時までの延長保育、休日保育などを実施する予定です。
 一方で、企業参入に対し、反対の立場をとっている自治体があります。
 名古屋市では今後3年間、企業に対して認可保育園の運営を許可しないとの方針を打ち出しました。名古屋市の待機児童数は全国で9番目と需要はかなり多いのですが、「保育には営利を目的とする事業者はなじまない。国の規制緩和策があるとはいえども、市は独自に判断した。」としています。
 また大阪市でも「来年4月時点になったら企業参入を検討したい。それまで企業には社会福祉法人の形態をとってもらう。」とし、全国で一番待機児童が多いにもかかわらず、その解消に向けての俊敏な対応をしている状況とはいえません。
 国の「待機児童ゼロ作戦」は、監督・運営責任がある地方自治体の裁量に関わってきており、企業活力を推進する自治体もあれば、そうでない自治体もあり、一斉に実現へと向かう方向にはいかないようです。 ともあれ、一番に考えなければいけないのは「子どもの幸せ」です。決して子ども達が、不幸な境遇に置かれることのないよう、国、自治体とも環境整備を早急に整えてもらいたいものです。
 
待機児の多い自治体
('01年4月現在)
1 大阪市 1,967
2 横浜市 1,758
3 神戸市 1,371
4 川崎市 1,184
5 東大阪市 1,10
6 堺市 1,02
7 東京都世田谷区 592
8 仙台市 540
9 名古屋市 537
10 京都市 532
11 福岡市 487
12 東京都足立区 469
13 神奈川県相模原市 457
14 東京都板橋区 399
15 東京都江東区 387

(8/9日経新聞夕刊より抜粋)