〜都、福祉施設運営からの撤退と社会福祉法人への人件費補助廃止を検討〜

  6月28日付の各紙でも報じられましたが、東京都の「都立福祉施設改革推進委員会」はこのほど、高齢者や障害者の福祉施設運営から一部を除いて撤退するとの方針をまとめた報告書を発表しました。また7月2日に同じく東京都が都の諮問委員会の中間提言として発表したところによると、民間の保育所や障害者施設の常勤職員に対して都が負担している人件費補助に、廃止の可能性が出てきました。
 東京都のこうした意思表示は、今後の都の福祉政策や、他の自治体への影響を考える上で、看過すべからざるものといえるでしょう。本号のFaxNewsでは、これらについてお伝えします。

 

 都、福祉施設運営からの撤退を検討

 これまでの行政による措置制度から、福祉サービスを利用者が自ら選択する制度へと移りつつある時代の趨勢の中にあって、民間施設が量的にも質的にも充実しつつある現状に鑑み、都はその福祉分野における役割を「サービスの直接供給」から「新しい福祉システムの適正な維持、向上」に転換させるべきであるとして、今後段階的に施設の廃止や民間移譲を進め、運営からの撤退をめざしていくとの方針を示しています。

「都立福祉施設改革推進委員会報告書」に関する記事から
 報告書では、民間施設が量的・質的に充実する中、都が福祉分野で果たすべき役割について「サービスの直接供給」から「福祉システムの適正な維持・向上」に転換させる段階にあるとして、施設運営を見直すべきとの見解を示している。
 主な都立福祉施設の内訳は、特別養護老人ホームと老人保健施設で構成するナーシングホームなど高齢者施設が7ヵ所、一人親家庭の子供などを預かる児童養護施設が10ヵ所、障害者施設は19ヵ所で、今年4月現在の各施設の定員は計約6,600人。都立施設には現在約5,000人が入通所しているが、特別養護老人ホームの都内の待機者だけでも2,500人を超えており、反発が予想される。
 対象とされる施設のうち、障害者施設と都内にある児童養護施設は民間に移譲。都外にある児童養護施設と高齢者施設のナーシングホーム、軽費老人ホームは規模を縮小し、将来は廃止する。児童自立支援施設など法律で都が運営すると定める施設は継続する。
 報告書では都直営の施設サービスは「収束させていくことが適当」と指摘し、精神疾患やアルコール依存といった問題を抱える高齢者が増え、新たな需要が出ている養護老人ホームについては「将来の方向を早期に定めるべきだ」としたが、他の施設は廃止や民間への移譲を明確に盛り込んでいる。 (日本経済新聞・朝日新聞 6月28日朝刊より)
▽高齢者施設
ナーシングホーム(特別養護老人ホーム・老人保健施設)
2ヵ所
廃止に向け規模縮小
養護老人ホーム
4ヵ所
規模縮小、民間委託施設は移譲
軽費老人ホーム
1ヵ所
早期廃止
▽児童施設
都内の児童養護施設
5ヵ所
民間移譲
都外の児童養護施設
5ヵ所
廃止
▽障害者施設
更正施設、授産施設など
19ヵ所
民間移譲など
(児童自立支援施設など、法律で都が運営すると定める施設は継続する)
                                                              (日本経済新聞 6月28日付朝刊より)

【用語解説】
ナーシングホーム
 ここでいう「ナーシングホーム」とは、東京都が平成11年に制定した「東京都立ナーシングホーム条例」に定められた「東京都立ナーシングホーム」を指し、介護福祉施設サービス、短期入所生活介護、介護保健施設サービス、 通所リハビリテーション、短期入所療養施設、居宅介護支援、などのサービスを行うものです。
 広義には「老人ホーム」を指し、介護老人福祉施設や介護老人保健施設などの名称に使われる(例・「介護老人福祉施設 ナーシングホーム○○」など)こともあります。
児童養護施設
 児童福祉法第七条に定められた児童福祉施設(助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、児童厚生施設、知的障害児施設など)の一つで、乳児を除く、保護者のいない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させ、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設を指します。
障害者施設
 ここでは、報告書の中で言及されている(運営見直しが提言されている)施設のうち、知的障害者更正施設(知的障害者福祉法第五条に定める知的障害者援護施設の一)、知的障害児施設(児童福祉法第七条に定める児童福祉施設の一)、身体障害者療護施設、身体障害者授産施設、身体障害者更正施設(以上身体障害者福祉法第五条に定める身体障害者更正援護施設の一)の総称として「障害者施設」という語が用いられています。

 都、社会福祉法人の人件費補助廃止か

  社会福祉法人のあり方などを検討すべく、東京都が昨年12月から設置している「福祉サービス提供主体経営改革に関する提言委員会(委員長・高橋紘士立教大教授)」は7月2日、人件費補助の廃止など、補助制度の抜本的な見直しを求める中間提言をまとめました。
 都は、施設に対する運営費補助である都加算及び公私格差是正事業を見直し、平成12年1月に「民間社会福祉施設サービス推進費補助」を開始しました。これは交付対象を対象施設の人件費としており、社会福祉法人が運営する施設の常勤職員の平均勤続年数に応じて算定され、今年度は776施設に対し132億円が助成されています。提言ではこの補助金について「抜本的に見直し、基本的に廃止することが適当」としています。
 このほか、職員の増配置や利用者サービスに係る経費に対する補助金についても「全面的に再構築することが適当」とし、さらに運営費だけでなく、施設整備費補助への上乗せ補助に対しても「本質的には同様のことが指摘されうる」と、今後の見直しを示唆しています。

【提言が指摘する運営費補助の問題点】
 ・ 一度加算すると、以後は経常的経費として一律に補助され、各法人・施設の努力の度合を的確に反映するものとなっておらず、サービス
  向上努力を促す十分なインセンティブとして機能していない。
 ・ 具体的な効果の検証が難しく、施策の成果が税負担者にとってわかりづらい。
 ・ 多様な事業者の参入による競争の中でのサービス向上が期待される中にあっては、既存の事業者に対象を限定した補助は提供主体間
  の競争の条件に格差をもたらすとともに、利用者からみた公平性という点でも問題がある。   など

 折しも、6月25日の経済財政諮問会議における閣議決定で、国庫補助負担金について2006年度までに数兆円規模の削減を目指すとの方針が発表され、また小泉首相が7月2日の閣僚懇談会において補助金廃止への取り組みを各省庁に指示するなど、国の補助金についても削減へ向けた動きが見えつつあります。今回の都の発表はまだ提言の段階ではありますが、今後の都や他の自治体の政策に影響が及ぶことも考えられます。今後の動向に十分な注意を要するとともに、将来を見据えた経営ビジョンがますます求められる時代になりつつあるということになるでしょう。








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